世界的な金融政策の転換:米国のリフレーション、円高とキャリートレード

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2025年12月5日に米国商務省が発表した9月PCEデータは重要な転換点となった。米国コアPCE前年比は2.8%で、前回値をわずかに下回ったが、依然としてFRBの目標である2%を大きく上回っている。同時に、日本の10年国債利回りは2007年以来の高水準(12月には1.5%を突破し、さらに2%に迫る勢い)、米国10年国債利回りは1日で60ベーシスポイント急騰、世界の債券市場が異例の同時売りとなった。市場ではこれを「円キャリートレード逆転」によるものとする見方が一般的だが、ジョンズ・ホプキンス大学応用経済学教授でマネタリズムの旗手スティーブ・ハンケ(日本の「財政幻想」の崩壊は時代の終焉の象徴:低金利の庇護から高債務・高圧力へ)は全く異なる見解を示している。「本当のリスクは日本ではなく、米国自身に迫る『リフレーション』と『過度な金融緩和』にある。」

1. 米国のマネーサプライは密かに「ゴールデン成長率」を超過、リフレーションの兆候は深刻に過小評価されている

ハンケは長年、「ゴールデン成長率(Golden Growth Rate)」の法則を用いている:M2の前年比成長率が6%で安定していれば、米国の実質潜在成長2%+貨幣需要増加2%の条件で、2%の安定したインフレが実現できる。6%未満ならデフレリスク、6%超ならインフレリスク。

最新データ(2025年11月末)では:

  • 米国M2の前年比成長率は4.5%まで回復(FRB公式サイト)、一見安全圏内だが、
  • だがM2の80%を占める商業銀行創出分(銀行貸出主導の広義通貨)は既に6.8~7.1%(ハンケチーム試算)と、6%の警戒ラインを明確に上回っている。
  • 2024年4月にFRBは「補足的レバレッジ比率(SLR)」の銀行への追加資本規制を完全撤廃、2026年第2四半期から商業銀行は新たに2.3~2.8兆ドルの融資能力を解放すると予想される。
  • 2025年12月からFRBは正式にQT(量的引き締め)を停止、毎月のバランスシート縮小も停止し、中立もしくはごくわずかな拡大に転じている。
  • 2025会計年度の連邦赤字/GDPは6.2~6.5%を維持、そのうち約45%が1年未満の短期国債発行による資金調達で、これらの短期債はマネーマーケットファンド(MMF)に大量吸収され、M2を直接押し上げている。

ハンケは初めて公に認めた。「私はこの2年間ずっと『M2が6%を再び超えない限りインフレは再燃しない』と言い続けてきたが、今は意見を変えた——銀行が創出するマネーは既に突破し、全体のM2も加速しつつある。我々は転換点にいる。」

彼の概算では、2026年にM2の前年比が10%に達した場合(ハンケは高確率とみる)、実質成長2%+貨幣需要増加2%を差し引いた残り6%がインフレとなり、保守的に見積もってCPIインフレ率5%、保守的でなければ6~7%に戻る可能性がある。これは2021~2022年のM2ピーク26.7%→インフレ9.1%の経験則(26.7%÷2.7≒9.9%)と完全に一致する。

さらに重要なのは、2025年以降、M2とCPIの先行・遅行関係が典型的な12~24か月から6~9か月に大幅短縮、場合によっては「同時化」していること。これはマネーが加速すれば、インフレが極めて速やかに顕在化することを意味する。

2. FRBはいまだ「見て見ぬふり」、政治的圧力の下で緩和に傾きやすい

ハンケは痛烈に批判する。「FRBは『データ重視』を標榜するが、インフレで最も重要な変数——マネーサプライMだけは見ていない。PCE、CPI、失業率、製造業PMIばかり見て、MV=PYというマネタリズムの根本公式を無視している。」

2025年12月10~11日のFOMC会合では、市場は94%の確率で25bp利下げを織り込み、ほぼ確定。2026年の利下げ見通し中央値は75~100bp。もしトランプが指名するケビン・ハセット(Kevin Hassett)が2026年第2四半期にパウエルの後任としてFRB議長に就任すれば(予想市場の確率は11月の30%から60%へ急上昇)、市場は「トランプの人」と見て、大幅利下げと弱ドル政策を織り込む。

これは銀行貸出爆発、QT停止、赤字の貨幣化と合わせて「四重緩和の共振」となり、ハンケはこれを「完璧なリフレーションレシピ」と呼ぶ。

3. 円キャリートレードの真実:今回の債券売りの主因ではないが、2026年米国株バブルの引き金となりうる

市場の一般的なストーリーは、日本10年国債利回りが18年ぶり高水準→円高→キャリートレードの巻き戻し→世界のリスク資産売り、というもの。

ハンケはこの論理を大きく誇張されているとみる。

  1. 今回の米10年債利回りは3.8%から12月には4.6~4.8%まで急上昇したが、主因は日本ではなく、米国自身のリフレーション期待+ハセット登場による「緩和恐怖」。日本10年JGB利回りは2007年以来の高水準だが、絶対値は1.5~1.8%に過ぎず、米国との差は依然300bp以上。
  2. 現在の円相場は152~155円のレンジで、2024年8月の160円目前という極端な円安からは程遠く、キャリートレードのシステム的な巻き戻しは発生していない。
  3. ハンケが本当に懸念するのは「逆のシナリオ」:2026年、FRBがリフレーションで利下げを停止、場合によっては利上げ再開を余儀なくされ、米金利が再び上昇。日本はインフレ沈静化で利上げを停止し、円が10~15%急騰(130~135円に回帰)。その時こそ、キャリートレードが「踏み上げ」的な巻き戻しを起こす。

ハンケとTim Lee(『The Rise of Carry』著者)の長年の研究によれば、日本の民間部門の貯蓄率はGDPの8~10%と高く、公的部門は赤字だが経常収支は4~5%の黒字を維持。世界最大かつ最も持続的な資本輸出国であり、円が大幅上昇しない限り、キャリートレードは米国資産バブルに「資金供給」し続ける。

一方、円高でキャリートレード逆転が起これば、日本資本が米株・米債・メキシコペソなど高利回り資産から大規模に引き上げ、日本に回帰する。これは2024年8月の「円ショック」で世界株が8~12%暴落した再現だが、2026年は米株のバリュエーションがさらに高い(現時点でS&P500の予想PERは24.5倍、ハンケのバブルモデルではバブル度90%分位)ため、ダメージはさらに大きい。

4. 2026~2027年の最もありそうなマクロシナリオ——ハンケの最新判断

  1. 2026年前半:FRBが利下げ継続+SLR撤廃+赤字貨幣化→M2成長率8~11%加速→インフレ再び4~6%へ上昇→米長期金利は下がらず逆に上昇(リフレーショントレード)
  2. 2026年後半~2027年:FRBが利下げ停止を余儀なくされ、場合によっては再度利上げ→米日金利差が再び拡大→円が10~20%急騰→キャリートレードが大規模逆転→米株バブル崩壊、S&P500は25~40%調整の可能性
  3. 世界的影響:新興国通貨(メキシコペソ、トルコリラ、インドルピー)が同時暴落、コモディティは一時高騰の後崩落、金は一時抑制後に急騰。

5. 投資対応アドバイス——ハンケの原文抜粋

  1. バブルがいつ崩壊するかを予測しようとしないこと。ただし今がバブルであることは認めるべきだ。
  2. 直ちにポートフォリオをリバランスし、コロナ前の株・債券比率に戻す(例:85/15から60/40や50/50へ)。
  3. 債券のデュレーションを短縮し、長期米国債を回避。1~3年の米国債や変動金利債を増やす。
  4. 金やコモディティを一定割合保有し、マネー過剰供給とキャリートレード逆転の両方に備える。
  5. 円相場に注目:145円が中期警戒ライン、135円以下はシステミックリスク発動ライン。

結論

2025年12月は「円キャリートレードが世界を引き裂いた」起点ではなく、「米国金融政策が引き締めから過度な緩和へ転換した」起点である。本当のリスクは2026~2027年にある——米国はリフレーションの後に急停止を余儀なくされ、日本は先に利上げしその後インフレ沈静化で停止、最終的に円が大幅上昇し、キャリートレードが逆転、米株バブルが崩壊する。これは遅れてやってきたマネタリズムの教科書的事例——中央銀行がマネー総量を無視し、雇用や短期物価だけに目を向けると、インフレと資産バブルはついに制御不能になる。

ハンケ教授の最後の言葉は、すべての投資家が心に刻むべきだ。「FRBはマネーサプライを無視できるかもしれないが、マネーサプライはFRBを無視しない。歴史は繰り返すが、そのやり方は異なる。今回は『緩和先行・引き締め後行+円高』の複合パンチになるかもしれない。」

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